なぜ決算書は必要なのか
「なぜ決算処理なんて面倒なことしなきゃいけないんだ……。」
社長だけじゃなく、決算に関わる仕事をしている方でこのように思ったことがある人は多いでしょう。
決算書は会社の通信簿と言われますが、もちろん役割はそれだけではありません。決算書は以下のように、外部に公開しなければいけないシチュエーションがあります。
決算書の開示義務1.全ての法人が税務署に対して
決算書の開示義務2.大会社の一般開示
決算書の開示義務3.債権者に対して
決算書の開示義務4.議決権比率3%以上の株主に対して
決算書の任意開示1.金融機関に対して
決算書の任意開示2.取引先に対して
決算書の任意開示3.社員に対して
決算書は税金算出のために必要です。また、融資の際に金融機関に見せる必要がありますし、取引先に安全性を担保する必要もあります。そして、社会の一部として機能しているため、健全で安全な会社経営を行っていることを示すために一般的に公開される必要があります。
つまり、「健全で安全な会社経営」をしっかりと判別できるルールで作られているため、複雑で面倒なものになってしまっているということです。
実際に自分が関わることを考えればわかります。例えば、その会社で働いたり、取り引きをしたり、株式市場で株を購入したり、企業買収を持ちかけたり……。
その企業が潰れたりしないかを知ることがとても重要だということです。
そこで今回は、決算書から企業経営の安全性を確認できる3つの指標のお話をしたいと思います。
経営安全指標1.貸借対照表の自己資本比率
まずは貸借対照表(バランスシート)から導き出される指標「自己資本比率」を見ていきます。
自己資本比率は、どのくらい「自分のお金=返済不要なお金」があるかを示す値です。自己資本比率を見れば、会社の健全性がわかります。
自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100
上の計算式でもわかるように、資産のうちどの程度が純資産(返済不要なお金)で賄われているのかを表します。当然この自己資本比率が高い方が、
返済額が少ない→自分たちの力だけで運営できている→会社が健全
と評価されます。
貸借対照表で見る総資産のうち、返済の必要が無い純資産の割合を示す指標です。
自己資本比率が高いほど他人資本(借入など)は少なくなります。もちろん無駄な借入が少ない方が経営は健全といえるでしょう。
業種によって平均値は変わるので一概には言えませんが、一般的に自己資本比率が50%を超えていると倒産リスクがほぼ無い超優良企業とされ、40%以上だと倒産リスクの少ない優良企業だと判断されます。ちなみに中小企業だと15%前後が自己資本比率の平均と言われています。
ただし、銀行の様に資産となる物自体が商品の場合は自己資本比率は10%未満になりますし、石油などの資源を扱う企業の場合は自己資本比率は60-70%と高くなります。
経営安全指標2.損益計算書の経営安全率
次に損益計算書から導き出される指標「経営安全率」です。
経営安全率とは、限界利益を経常利益がどのくらい上回っているかを表す比率のことです。
経営安全率(%)=経常利益÷限界利益×100
仮にこの比率が5%あると、経常利益が5%減少しても赤字にはならないということです。つまり経営安全率が高いほど倒産しにくい黒字企業であり、体力のある安定性の高い企業だと判断できるのです。
ちなみに限界利益とは、売上から変動費を引いた利益のことを言います。式で表すと以下の2つ。
限界利益=売上-変動費
限界利益=固定費+利益
例えば、6万円の商品を仕入れて、10万円で販売できれば、理論上商売は成り立ちます。100個仕入れれば600万円の仕入、全部売り切れば1,000万円の売上、そして400万円の粗利です。
これを限界利益と言います。限界利益は固定費の概念を含みません。
業種やビジネスモデルによって経営安全率は変わりますが、経営安全率が高い企業は安定的な経営を行っており、不況などで売上が下がっても簡単には倒産しないでしょう。
経営安全率を上げる方法は以下の2つ。また、業種別経営安全率は以下のリンク先を参考にしてください。
経営安全率を上げる方法1.限界利益をあげる
経営安全率を上げる方法2.固定費のコントロール
参考:
損益計算書で見る経営安全率の目安と安全性を高める方法
経営安全指標3.キャッシュフロー計算書の自由資金比率
最後にキャッシュフロー計算書から導き出される指標「自由資金比率」です。
自由資金比率(%)=フリーキャッシュフロー÷利益剰余金(自己資本)増加額
この自由資金比率によって、稼いでいる利益がキャッシュになりやすい企業体質かどうか、資金繰りは順調かどうか、キャッシュ面で会社経営が良いか悪いか判断できます。
簡単に言うと、会計上の利益とキャッシュフローのズレをあらわす指標が自由資金比率です。会計上の利益とキャッシュフローがズレることは、会計に携わっている方はもちろん、ある程度会計を勉強していればわかるはずです。
ちなみにフリーキャッシュフローとは以下の通り。
フリーキャッシュフローとは、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを足したものです。
フリーキャッシュフロー=営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー
つまり、以下のキャッシュを表しています。
「販売や仕入などの営業活動をして手元に残ったキャッシュから、事業継続に必要な設備費用を支払ったキャッシュの残り」
フリーキャッシュフローは借入などの財務活動で得たキャッシュを含まないため、その会社が純粋な営業活動でキャッシュをどれだけ作ることができるかという能力を測る指標だと言えます。
フリーキャッシュフローはプラスの方が経営状態が健全で、マイナスの場合は投資ばかり大きく肝心の営業で回収ができていない状態です。
そのため、フリーキャッシュフローが大きい会社は自由資金比率は高くなり、逆に自由資金比率が低いと儲かっていても資金効率が悪い会社、つまり経営が上手ではないという見え方になります。
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書は企業の安全性に欠かせない
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書それぞれにある経営の安全を図る指標を見ると、改めて財務3表が重要な書類だということがわかります。
紹介した3つの指標にそれぞれお題目を付けるなら、以下のことががわかる指標です。
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・自己資本比率は「会社が潰れない指標」
・経営安全率は「儲かりやすさの指標」
・自由資金比率は「資金繰りのうまさを示す指標」
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経営安全率が高いということは利益が多く出ているということであり、結果として利益余剰金が増えます。この利益余剰金は自己資本に入るため、自己資本比率が増加します。
結果として使えるフリーキャッシュが多くなり、自由資金比率が増すことで、さらなる経営拡大に繋げていけます。
このように3つの指標は連動しているため、まずは1つの指標を健全化し、会社経営全体を良い方向に導くことが社長の役割ということになります。