財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応
社会保険料は社員と会社がほぼ同額負担
社会人なら誰でも知っている社会保険ですが、社員個人だけでなく会社も社会保険料(4つの保険料を合わせた総称)を負担していることを知っていますか?
会社を設立すると、会社主体の社会保険の加入は義務です。そして、会社と社員が社会保険料を分割負担(ほぼ半分ずつ負担)します。
社会保険は国の義務であるため会社側にメリットは特に無く、社員の生活を守る社会制度として会社が負担しなければいけない、という考え方です。
社員の給与から社会保険料を源泉(天引き)し、会社負担分の社会保険料と合算して年金事務所に支払っているのです。
起業したばかりの方であれば、「社会保険料は知っているけど、会社が何割負担して、社員が何割くらいを自己負担しているのかはよくわからない」という方も多いかもしれません。
社会保険料は社員に支払われる給与額によって変動します。その為、社員の給料が上がれば上がるほど、会社が負担する社会保険料も大きくなるということです。
例えばあなたが月に4万円を社会保険料で支払っている(天引きされている)ならば、会社も4万円負担します。もし同給与の社員が10人いれば、会社は40万円負担することになります。
これは会社にとって大きな負担額です。もしあなたが起業したいなら、会社が負担する社会保険料は絶対に知っておかなければいけません。
それでは、社会保険がどういったものなのかを見ていきましょう。
そもそも社会保険とは
「雇用保険」「労災保険」「介護保険」「健康保険」「厚生年金保険」の5種類を合わせて社会保険と呼びます。
社会保険(しゃかいほけん)とは、社会保障の分野のひとつで、国民が生活する上での疾病、高齢化、失業、労働災害、介護などの事故(リスク)に備えて、事前に強制加入の保険にはいることによって、事故(リスク)が起こった時に現金又は現物給付により生活を保障する相互扶助の仕組みである。
参考:
社会保険 – Wikipedia
求人誌に書いてある社会保険完備(社保完)とは、この5つが揃っていることを言います(当たり前なのですが)。
社会保険の加入条件
「雇用保険」「労災保険」「介護保険」「健康保険」「厚生年金保険」は労働者を雇用する会社であれば、基本的には、全ての会社が加入しなければなりません。
労働者は、働いた対価として、賃金や給与その他これに準ずる物の支給を受けている人はすべてその対象となります。
ポイントは「準ずる物」も含まれている点です。
昔で言うところの「丁稚奉公(でっちぼうこう)」つまり住み込みで給与がない場合でも、住み込みが労働の対価と認めらると、労働者の対象になるのです。
また、31日以上労働の見込みがあればその場合も対象となります。
仮に未加入が発覚した場合はどうなる?
会社を設立し、3~4ヵ月ぐらい経つと年金事務所から社会保険の加入対象者がいないか手紙が来ます。
この手紙を無視し続けると、そのうち調査員が突然訪問していきます。
昔は調査員が訪問することはあまりなかったのですが、今は、社会保険の財源が逼迫しているので年金事務所もできるだけ社会保険料を取れるように調査員が適用事業所なのかを念入りに確認します。
仮に、その際に未加入者が判明した場合は、原則して過去2年間遡って保険料を納付する必要があり、懲役刑や罰金刑を科せられる場合もあります。
経営者には是非とも知っていただきたいのですが、年金事務所の実行権力は強く、保険料を支払わない場合、会社への立ち入り及び仮差押を裁判所の判決を受けずとも行うことが可能です。
納付忘れもあるので、すぐには強制的な行動はしませんが、悪質な場合は強制的に徴収する権利を持っているのが年金事務所です。
納税はしっかり行いましょう。
社会保険に加入する必要がない場合もある!
会社は、労働者を1名でも雇用すれば、社会保険の加入義務あります。
この事業所を「強制適用事業所」と呼びます。
社員が「社会保険料を天引きされるのが嫌だから入らなくてい~」と言っても、加入するのは義務になります。
しかし、特定の条件の場合、このルールが適用されない事業所があります。
加入が必須でない条件
「常時雇用する従業員が5人未満である個人事業所」であることです。
但し、常時雇用する従業員が5人以上の個人事業所であっても下記業種は、加入が必須とはなりません。
- 農林水産業
- 美容業、飲食店、料理店、クリーニング店等
- 社会保険労務士、弁護士、税理士等
- 神社、寺等
逆に加入義務がない場合でも、「社会保険に入りたい!」場合は届出を行うことで、「任意適用事業所」として加入することができます。
その場合は、従業員の「半数以上」が適用事業所になることの同意を得る必要があります。
保険内容の説明
以降で各保険の概要を説明します。
雇用保険
雇用保険とは、別名、失業保険と言われるもので、労働者が失業した場合などに、労働者の生活や雇用の安定を図る失業給付を行ったり、雇用安定事業や能力開発事業を行う目的で活用される保険のことです。
会社が労働者を1人でも雇う場合は、雇用保険の加入が義務付けられています。
労災保険
労災保険は労働者災害補償保険の略で、業務時間帯のケガ、業務に起因するケガや病気をした場合に、治療費や休業時の賃金が補償されるだけでなく、障害が残った場合の障害年金、死亡時の遺族年金が支給される保険です。
雇用保険同様、労働者を1人でも雇う場合は労災保険の加入が義務付けられています。
介護保険
社会全体で高齢者の暮らしや健康、安全を守るために、「介護保険制度」は2000年(平成12)にスタートしました。
例えば、働いている人が交通事故等で寝たきりになった場合、介護サービス事業者から介護を受けた場合の費用を保険で負担することができます。
もちろん事故が、仕事中出なくても適用になります。
経営者の方が知っておくべきことは、40歳以上65歳未満のサラリーマンに納付の義務が発生することと、「第二号被保険者」と呼ばれることです。
1515%
介護保険料率が他の保険と比べ小さいので、納税している意識が低く介護保険を納税していることを知らないサラリーマンの方もいます。
健康保険
健康保険は労災保険とは違い、業務以外で病気やケガをしたときに、治療費の補填をしてくれる制度です。また、病気で会社を休む際に一定期間賃金補償したり、出産時の賃金補償や一時金を支給する目的で活用される保険です。
厚生年金保険
厚生年金保険は、加入者が一定の年齢になった時に、国民年金と合わせて老齢年金を支給するための保険です。また、業務外における障害認定を受けた場合は障害年金、加入者が死亡した場合は遺族年金を支給するための保険です。
法人における社会保険の適用義務
雇用保険:法人雇用はアルバイト、パート問わず義務、ただし法人の代表者は加入することができない
労災保険:法人雇用はアルバイト、パート問わず義務
健康保険:法人雇用は義務、パートは時間等によって義務
年金保険:法人雇用は義務、パートは時間等によって義務
ちなみに、社会保険に未加入の会社はまだまだたくさんありますが、以下の様に相応のデメリットが有ります。
社会保険未加入のデメリット1.最大2年の追徴金
社会保険未加入のデメリット2.法的な罰則がある
社会保険未加入のデメリット3.人材採用が困難
社会保険未加入のデメリット4.ハローワークで求人できない
社会保険未加入のデメリット5.関係者からの損害賠償請求
では、この義務である社会保険の負担額は、従業員、会社それぞれいくら位でしょうか。
社会保険料の負担額を計算する
社会保険料は、概ね会社と従業員が半分ずつ負担します。
そして、給与全体だと介護保険を含め約16%が社会保険料になります。
つまり、給与の額面が30万円の場合、社会保険料は「4.8万円」となり、会社負担分の保険料(約2.4万円)を差し引いた約2.4万円を給与から天引きすることになります。
会社が約半分を負担していることは従業員にとっては大変なメリットになります。
社会保険料がいくらになるのか、以下のモデルケースで会社が負担する社会保険料額をシミュレーションしてみましょう。
【 シミュレーションの計算条件 】
■従業員
住所
東京都在住
年齢
41歳
給与
30万円
■会社の業種
通信業
2020年現在、東京都に住む方で、通信業を営む会社と41歳で給与月額30万円の社員の社会保険料を計算してみましょう。
※合計額に1円未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てます。
健康保険料+介護保険+厚生年金保険料の計算
以降で「健康保険料(介護保険)」 + 「厚生年金保険料」 の計算方法を説明します。
保険料額表の見方
計算条件を、保険料額表に照らし合わせていきます。
利用する保険料額表は、東京都版の「令和2年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」です。
縦に「金額の範囲」があります(①)。
この範囲に給与を照らし合わせます。
該当する金額の範囲が決まったら、次に横に見ていきます(②)。
健康保険(介護保険)と厚生年金に大きく分かれており、それぞれに保険料額(全額欄)と従業員が負担する金額(折半欄)が記載されています。
従業員と折半なので、折半欄の額が会社負担額になります。
具体的には、給与の額面が30万円なので、報酬月額欄の「29万円以上31万円未満」の行を確認します。
上記表にはありませんが、等級は「22等級」で標準報酬月額は「300,000」になります。
健康保険(介護保険)料額の計算
年齢が41歳なので、「介護保険第2号被保険者に該当する場合」に該当します。
その為、保険料率は、「11.66%」です。
保険料額は、「34,980円」となり、従業員と会社で折半するので、「17,490円」になります。
ちなみに保険料額の計算は
34,980円 = 300,000(給与) × 11.66%(保険料率)
となります。
保険料率(11.66%)は、
健康保険料率(9.87%) + 介護保険料率(1.79%)
です。
厚生年金保険料額の計算
健康保険(介護保険)同様の手順で保険料額を確認します。
例では、保険料率は、「18.3%」です。
保険料額は、「54,900円」となり、従業員と会社で折半するので、「27,450円」になります。
ちなみに保険料額の計算は
54,900円 = 300,000(給与) × 18.3%(保険料率)
となります。
雇用保険料の計算
続いて雇用保険料率ですが、以下は厚生労働省掲載の「令和2年度の雇⽤保険料率」からの引用です。
雇⽤保険料率表の見方
縦に業種があり、横に軸に各業種別の保険率が記載されています。
ほとんどの業種が一般に該当しますが、農林水産等や建設業は離職者が他の業種より高いので、比率が高くなっています。
また、建設業は助成金制度に厚みがあり、その財源のもとになっている為率が最も高い設定になっています。
また、従業員は、「失業等給付・育児休業給付の保険料率」のみとなっていますが、会社には、「二事業の保険料率」がプラスされています。
その結果、会社負担の方が多くなっています。
雇用保険料の計算
■従業員の雇用保険料
300,000円(給与) × 1000分の3(雇用保険率) = 900円
■会社の雇用保険料
① 300,000円(給与) × 1000分の3(雇用保険率) = 900円
② 300,000円(給与) × 1000分の3(雇用保険率) = 900円
① + ② = 1,800円
②の分、会社は負担額が多い
労災保険料の計算
最後に労災保険料ですが、これは会社側のみの負担になります。
平成30年(令和元年)から率は据え置きになります。
■会社の労災保険料額
下記は「通信業(業種番号:97)」の場合です。
300,000円 × 0.25% = 750円
健康保険料(介護保険)+厚生年金保険料+雇用保険料+労災保険料=社会保険料
各社会保険料を合計すると以下の金額になります。
■従業員負担
健康保険(+介護保険)料:17,490円
厚生年金保険料:27,450円
雇用保険料:900円
合計:45,840円
45,840円 ÷ 300,000(給与) = 15%
■会社負担
健康保険(+介護保険)料:17,490円
厚生年金保険料:27,450円
雇用保険料:1,800円
労災保険料:750
合計:47,490円
47,490円 ÷ 300,000(給与) = 16%
つまり、会社は、各従業員の給与に対して「16%」の社会保険負担を追っていることになります。
社会保険料シミュレーションまとめ
まだ会社組織ができあがっていない場合、社会保険料の負担も軽いため、社長であっても意識は薄いかもしれません。
ただし組織化して人を増やしていくと、給与月額が30万円だったとしても、10人で月あたり約50万円前後、年間で600万円もの社会保険料を納めなくてはいけません。これはかなりの出費です。
10人の会社が社会保険料だけで600万円以上、給与の高い方もいると思いますので、下手をすると700万円以上の社会保険料を納めるということは、法人税よりも負担が重くなる可能性が高いということです。
というよりも、以下を見る限り社会保険料が中小企業の経営を圧迫しているのでは……。
2014年3月に国税庁が発表した「平成24年度分法人企業の実態(会社標本調査)」では、赤字会社は調査法人全体(253万5272社)の70.3%の177万6253社となっています。
つまり、現在納税されている法人税の大半は3割弱の会社によって賄われています。その3割の会社もちょっとだけ黒字という会社が多いのではないでしょうか……。
日本の倒産件数に関する詳細は下記をご覧ください。
日本の企業数、倒産件数、赤字会社の割合、上場企業数などもちろん、会社を営む社長にとって社会保険料を避けて経営することはできません。
事業計画、資金計画をする中で、社会保険料は絶対に考慮しなければならないコストだということを知っておいてください。
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応