役員貸付金を解消するための方法
以前に、役員貸付金と役員借入金のメリット、デメリットをお話しました。
どちらも必要な場面で活用する分には良いのですが、社長(役員)と会社という近い立場なので、ずるずると貸し借りが続いてしまうとデメリットが大きくなってしまいます。
特に役員貸付金は、法人からの借入なので注意しなければいけません。
役員貸付金とは、法人が役員に対して貸付けているお金をあらわす科目です。
役員貸付金は特に中小企業の社長のケースが多く、最も多い理由は一時的な役員報酬の代わりとするためです。
なぜ役員報酬の代わりかというと、役員報酬が損金不算入科目だからです。中小企業では、経営を安定させるため、税金を抑えるために役員報酬を低く設定することがよくあります。
役員貸付金は、利用しようと思った時点で返済方法を決めておかなくてはいけません(融資は全てそうなんですが)。
というわけで今回は、ずるずると行きがちな役員貸付金を解消する方法をお話していきたいと思います。
役員貸付金解消方法1.役員報酬から返済する
最も一般的な方法は、役員報酬の中から返済していくことです。当たり前ですが、役員報酬の税引き後手取りからということになります。
役員報酬を原資にして社長個人が払うため、節税対策はできません。また、返済のために役員報酬を増加すると、所得税負担や社会保険料が増加します。
なかなかのジレンマです。
役員報酬は会社の経営をベースにして、以下の考え方で設定してみると良いでしょう。
参考:
役員報酬ゼロはあり?起業社長の給与を決める4つの方法
役員貸付金解消方法2.貸倒れ処理を行う
役員貸付金は、個人が手軽にお金を借りられるメリットがある反面、額が大きくなるとなかなか返済することができません。そのため、貸倒れ処理を行い、会社が貸付金の返済を放棄する手続きを取ります。
この場合、放棄した役員貸付金の額は役員賞与として扱われるため、社長(役員)個人の所得税負担や社会保険料は増加します。さらに、計上した貸倒損失は損金不算入科目のため、課税対象となります。
役員貸付金解消方法3.個人資産の売却
社長個人の資産を会社に売却し、役員貸付金と相殺します。
ただし、相殺で資金の移動はなくても、資産売却により社長(役員)個人には譲渡所得税がかかります。もちろん不動産の売却の場合、会社は不動産取得税等の諸費用が発生します。
役員貸付金解消方法4.個人的な借入
社長(役員)個人が借入を行って役員貸付金を精算します。
当たり前ですが、社長(役員)個人が負債を抱えてしまいますし、社長(役員)個人の返済能力がない場合は意味がありません。
融資を受けたい、株式売却をしたい、出資を受けたいなど、今すぐ強制的に役員貸付金を無くしたい場合は有効な手段です。
役員貸付金解消方法5.退職金の引当
もしも退職金の設定をしている場合は、退職金を以って役員貸付金の相殺の対象にすることができます。
退職所得は個人の税負担が低く、勤続30年以上の退職金については1,500万円までが退職所得控除額になり、所得税も住民税もかかりません。
課税対象となる退職所得金額は以下の式で計算されます。
退職所得金額=(退職金の収入金額-退職所得控除額)×1/2
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勤続年数による退職所得控除額
20年以下:40万円×勤続年数
20年 超:70万円×(勤続年数-20年)+800万円
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もちろん相殺と言っても、実際には社長(役員)に支払われていることと変わりがないため退職所得として課税対象にはなります。
また、形式的な退職であり、裏で実質的な経営権を握っていた場合は、退職金は役員賞与と判断されてしまうこともあります。
役員貸付金を解消する5つの方法まとめ
冒頭でお話した通り、「社長(役員)と会社という近い立場なので、ずるずると貸し借りが続いてしまうとデメリット」だということがよくわかったはずです。
役員貸付金のデメリットを考えると、会社の経営に影響を及ぼすことは目に見えるため、本来は使わない方がよいのです。
役員貸付金は、期をまたぐと決算書に記録が残ってしまいます。決算書に残ることで影響を受けるシチュエーションはたくさんあります。
融資を受けたいにもかかわらず、貸付金があることはマイナス評価になります。「まず先にそれを回収しろ!」ということです。
よくある貸付金のパターンは、社長に対して貸し付けている役員貸付金です。
せめて決算書に乗らないように、決算前に役員貸付金を解消しておく方が良いでしょう。
とは言え、役員貸付金はそう簡単に解消できるものではありませんし、会社それぞれ事情もあるため、長くても2期間決算書に残らないように役員貸付金の解消をスケジューリングした方が良いですね。
また、法人と個人の区別を明確にするために、予め社長の個人資産は別立てをして現金管理を行える体制を整えておきましょう。