社長や取締役が負う経営責任とは?
起業をすることは案外簡単です。
個人事業主だけでなく、株式会社でも書類手続きと一定のお金さえあれば、誰でもすぐに社長になれます。
さらに、取締役になることも簡単です。
友達が起業するなら、事業内容を聞いて、強く共感して、「俺も少し株買うから取締役に入れてくれ。」というだけで大抵就任できます。(起業当初の社長は心強い味方が欲しいので……。)
ただし、会社を経営し続けるのはなかなか大変です。なぜなら法人全体の70%が赤字経営だからです。
2014年3月に国税庁が発表した「平成24年度分法人企業の実態(会社標本調査)」では、赤字法人は調査法人全体(253万5272社)の70.3%の177万6253社となっています。
さらに、様々な経営責任も負わなければいけません。顧客に損害を与えれば損害賠償を負わなければいけませんし、株主がいれば株主に対する責任も発生します。
そしてこのような経営責任は、社長=代表取締役だけではなく、取締役も負わなければいけない場合があります。
先ほどの話とは逆で、もしあなたに取締役のオファーが合ったとしても、「社長じゃないから楽!」とは考えずに、負うべき経営責任を最初に見極めた方が良いでしょう。
今回は、取締役が負わなければいけない「会社に対する責任」と「第三者(株主、会社債権者など)」に対する責任を解説します。
取締役の経営責任とは賠償責任と連帯責任
会社の取締役に就任している場合、一定の賠償責任と連帯責任を負うことになります。
経営責任のメインは賠償責任です。取締役に賠償責任が発生するのは、以下の2つの場合です。
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1.その取締役が、職責を全うせず顧客等に損失を与えた場合
2.その取締役が、悪意や重大な過失で損害を与えた場合
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もちろん、大きな企業であるほど売上金額が大きくなるため、連帯責任における賠償も高額になる可能性があります。
つまり、取締役を担っている方は、「普段会社経営の方針を決めていないからといって責任が発生しないわけではない」ということを認識しなければいけません。
もちろん、会社の経営陣が業界、顧客、社員などのステークホルダーに与える影響が大きくなるほど、賠償責任は大きくなっていきます。
取締役の経営責任1.会社に対する責任
本来、社長は個人、会社は法人という別の人格です。
日本の中小企業では100%出資者=社長の場合が多いので、「会社=社長」と思われがちですが、欧米では出資者と経営責任者である社長は分けて考えられます。
もちろん他の取締役に関しても同様で、社長を含む取締役たちは会社と委任契約の関係を結ぶため、会社が外部から何らかの責任を求められた場合、その会社を運営していた取締役に責任があると考えます。
取締役が会社に対して負う損害賠償責任
会社法第423条には「その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と記されています。
取締役が任務を怠るとは、以下のようなことを言います。
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1.取締役は、会社に対して善良なる管理者に期待されるべき注意義務を負う
2.法令、定款、総会決議を守り、職務を忠実に遂行する義務を負う
3.会社との競業に関する規制を守り、利益が相反する取引を行わない義務を負う
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つまり取締役は、法令や会社の取り決めを守り、管理者としての職務を全うし、利益相反行為を行わないことが求められます。
取締役の経営責任2.顧客に対する責任
会社が顧客、ユーザーに損害を与えた場合、取締役には損害賠償責任が発生します。
会社法では以下のように定められています。
第五十四条 発起人、設立時取締役又は設立時監査役が株式会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の発起人、設立時取締役又は設立時監査役も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。
第四百三十条 役員等が株式会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の役員等も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。
第五章 計算等第一節 会計の原則
参考:
会社法
取締役が第三者に対して過失がないことを証明した場合を除き、損失を補償する義務を負います。
そしてこの責任は、当該取締役により生じた損害賠償責任を他の取締役も同等で負わなければならない「連帯責任義務」となっています。
取締役が経営責任を問われる場所
取締役が負う経営責任は、法律に則って以下の場所で訴訟という形をとられます。
株主や会社からの株主代表訴訟
まず株主や会社に金銭的損害を与えた場合は、株主代表訴訟という形で訴訟を起こされます。
基本的には、取締役に過失があろうとなかろうと、経営の責任者としての責任を負わなければいけません。
顧客やユーザーからの第三者責任訴訟
一方で第三者に損害を与えた場合の損害賠償責任に関しては、第三者責任訴訟という形で追求されることになります。
この場合は悪意や重大な過失があるときにのみ、第三者に対して損害賠償をする責任が生じます。
取締役の経営責任が限定・免除される4パターン
取締役が任務を怠り経営責任を問われる際、以下の条件によってその経営責任を限定したり、免除される場合があります。
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・実際に職務を行うときに義務違反を知らなかった
・責任事項に対して重大な過失がない
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取締役の経営責任が免除されるのは、この2つの条件に合致し、さらに株主代表訴訟などで取締役の責任を負わないことを決定した場合です。
経営責任の免除・限定1.すべての株主が責任免除に同意した場合
株主代表訴訟において、全ての株主が責任免除に同意した場合は、取締役の責任は免除されます。
ただし、株主代表訴訟は誰かが当事者となって開かれるものなので、全員一致ということはほぼあり得ないでしょう。
経営責任の免除・限定2.株主総会の特別決議による責任免除
株主総会において、出席した株主の3分の2以上が責任免除に賛成する特別決議があった場合は、取締役の経営責任は免除されます。
ただし「善意の重過失ではない」場合のみです。
善意=知らなかったということはまだあり得ますが、重過失ではない=情報収集や注意を怠らなかったと言い切ることは難しいはずです。
さらにこれらを証明するために、株主総会で説明義務があります。
賠償額、責任限定・免除額については当然のこと、もっとも重要なことは「責任を免除する理由」です。
株主総会において「責任を免除する理由」を述べる場を設けるだけでも手続きが必要です。
監査役設置会社等であれば、責任免除の議題を株主総会で行うためには、監査役の同意が必要です。監査役は、自らの監督責任を問われる場にもなり得るため、同意はしづらいでしょう。
経営責任の免除・限定3.取締役会による責任免除
監査役設置会社等において、取締役の過半数の決議(当該取締役をのぞく)があれば、取締役の責任を一部免除することができます。
ただし、3%以上の議決権を持った株式を保有する株主が異議を唱えた場合はこの方法を行えません。
さらに定款において、取締役会決議により取締役の責任を免除できる旨を定めておく必要があります。
経営責任の免除・限定4.責任限定契約による責任免除
取締役の中で、社外取締役・社外監査役・会計監査人などは、責任限定契約を結ぶことで最初から責任の一部を免除することができます。
ただしこちらも、定款に取締役会決議により取締役の責任を免除できる旨を定めておく必要があります。
社長と取締役の経営責任(損害賠償責任と連帯責任)まとめ
これで取締役に対する経営責任の重さがわかってもらえたでしょう。
時々、「友達が会社を設立するから名前を貸して取締役にしてもらった。」という話を聞きます。
経緯はわかりませんが、これは場合によっては非常に危険な行為だということを肝に命じておきましょう。
会社がうまくいく・いかない、友達が信用できる・できないの話以前に、その友達も取締役が負う責任の重さを知らないで話を持ちかけていることが考えられます。
友達だからこそ、重要なことをしっかり話し合って、お互いの関係を悪くしないように気をつけたいところです。