売上高人件費率(人件費率)とは
売上高人件費率(人件費率)とは、会社の売上に対する人件費の割合のことを指します。人件費には、社員の単純な給与、賞与の他に、福利厚生費、法定福利費、退職金、役員であれば役員報酬と役員賞与などが含まれます。
売上高人件費率が大きければ、会社の人件費の負担割合が大きいことを示しており、逆に売上高人件費率が小さければ、会社の人件費の負担割合が小さいことを示します。
ただし、一概に売上高人件費率が小さいことが良いことで、売上高人件費率が大きいことが悪いということではありません。
重要なことは、業種、企業規模、ビジネスモデル等に合わせた適切な売上高人件費率を把握し、経営の指標として比較しながら正しく運用することです。
今回は、業種別の売上高人件費率のいくつかの事例と売上高人件費率の計算方法、また売上高人件費率を経営に活かすためにはどのような考え方を持たなければいけないかをお話したいと思います。
自社の売上高人件費率を計算する
自社の売上高人件費率を計算し、同業種の売上高人件費率と比較することで、人件費をベースとした経営状況が見えてきます。売上高人件費率を算出する計算式は以下の通りです。
売上高人件費率(%)=人件費÷売上×100
人件費率の計算例(年間5,000万円を売り上げるA生花店の場合)
例えば年間5,000万円を売り上げるA生花店があったとします。
A生花店は社長を含めて、常勤社員が3人、パートが2人で人件費は年間1,750万円かかっているとします。この場合、売上高人件費率は以下になります。
17,500,000÷50,000,000×100=35%
業種別の売上高人件費率において、花屋は30%程が平均値になるため(ページ下部参照)、A生花店の売上高人件費率は少し高めということになります。
前述した通り、算出した売上高人件費率そのものが重要なわけではなく、事業計画などの経営指標と比較しながら正しく運用して、あなたの事業に適切な売上高人件費率に持っていくことが重要です。
自社売上高人件費率をどのように考えるのか
通常、売上高人件費率が高すぎれば人件費過多となり、営業利益を圧迫します。
逆に売上高人件費率が低すぎた場合は人員不足となり、サービス低下や業務量過多による社員のストレス、販売リソース不足による機会損失増加等の弊害が発生する可能性があります。
ただし、単純に売上高人件費率が高い低いで考えるのではなく、なぜ高いのか、なぜ低いのか、どうすれば適正値に近づくのかを考えなければいけません。
事業計画と売上高人件費率がズレる場合
例えば、会社の規模拡大を見込んで人材採用する場合、その人材が利益貢献をするためにはある程度の時間が必要です。
経営が上手な社長であっても、この場合一時的に売上高人件費率は上がるはずです。これを悪いことだと認識してしまうと、規模拡大は行えません。
戦略的に業務の急拡大を狙う場合は、売上高人件費率を上げてでも人材の大量雇用を行う必要があります。
逆に、繁忙期と閑散期がはっきりしている業種は、売上高人件費率を閑散期に合わせがちです。この場合、繁忙期には売上高人件費率は下がり、経営視点で見るとキャッシュフローが良くなりますが、人員が足りず忙しすぎると社員のストレス→離職の原因になってしまいます。
業種別の売上高人件費率平均値
TKCが管理・算出している業種ごとの売上と人件費から、いくつかの業種の平均的な売上高人件費率をみてみましょう。
小売業の平均売上高人件費率
調剤薬局 21.2%
ガソリンスタンド 7.7%
家電小売り業 13.9%
魚屋 19.1%
肉屋 19.5%
酒屋 9.0%
化粧品小売 26.2%
アパレル 20.3%
花屋 29.4%
時計、メガネ屋 27.5%
花屋や時計、メガネ屋、化粧品小売などは人件費率(売上高人件費率)が平均的に高い傾向があるようです。
サービス業の平均売上高人件費率
美容業(エステ) 49.8%
美容室、理容室 54.3%
パチンコホール 4.8%
広告制作業 25.6%
広告業 20.4%
受注開発ソフトウェア業 45.6%
情報処理サービス 55.1%
経営コンサルタント 54.1%
建築設計 42.8%
訪問介護、ヘルパー 65.5%
ビルメンテナンス 57.5%
人材派遣業 62.4%
病院(入院施設無し) 51.9%
病院(入院施設有り) 49.6%
歯科医 54.4%
獣医 45.8%
鍼灸師、按摩マッサージ師 54.4%
クリーニング 44.9%
やはり小売業と比較するとサービス業の平均売上高人件費率は圧倒的に高いですね。特に「訪問介護、ヘルパー」は 65.5%となっており、事業に対する人材の重要性が高いことが見て取れます。
飲食業の平均売上高人件費率
ラーメン店 35.2%
料亭 37.3%
中華料理店 39.7%
居酒屋 36.2%
食堂、レストラン 33.3%
そば・うどん 38.5%
寿司屋 32.8%
キャバクラなど 56.4%
飲食業では、キャバクラが群を抜いて高い傾向があるようです。飲食業というくくりで見ると、お寿司屋さんなどは意外に低い傾向があるようです。
もっと細かく見たい方は、以下に業種別の売上高人件費率と労働分配率を計算した一覧があるので参考にしてください。
どうすれば最適な売上高人件費率になるのか
主に売上高人件費率が高すぎるので下げなければいけない場合の手段は、大きく分けて以下の2つ。
1.一人当たり生産性(売上高)を上げる
一人あたり売上高は急には上がりません。売上高人件費率を下げるためには長期的な視点が必要ですが、急激な変化は起きないため、会社経営においては健全な解決方法と言えます。
一度一人あたり売上高を上げることができれば、今後も継続した売上高が見込めるため、収益体質を根本から改善することに繋がります。
2.売上に対する社員数を減らす
社員数の削減はリストラや早期退職など即効性のある策です。売上高人件費率を下げるために短期的に結果を出せる反面、会社の信用を落とす可能性があります。
社員削減する場合は、売上を維持できるように営業現場以外の社員を優先的に削減することになります。もちろん、管理現場の負荷は高くなるため、オペレーション業務効率化、社員の教育がセットになります。
3.売上に対する社員の人件費を見直す
人件費の見直しも社員数の削減同様、会社の信用を落とす可能性がある対策です。
業種によりますが、売上に対する成果報酬制度を取り入れるなど、評価制度を作ることで売上高人件費率をコントロールする仕組みを考えても良いでしょう。
参考:
労働分配率と売上高人件費率で適正な社員給与を決める方法
業種別売上高人件費率の計算とコントロール方法まとめ
売上高人件費率は経営を円滑に行うための1つの指標にすぎません。
もちろん売上高人件費率が低い場合の対処方法としては、人員を増強したり、一時的に社員の満足度を高める環境を作ることが重要ですが、それが特別措置だということは理解してもらわなければいけません。
実際には、会社環境の急激な変化をコントロールすることは難しいため、売上高人件費率だけを調整するのではなく、関係した社内環境、インフラ整備、キャッシュ状況等を踏まえた複合的なコントロールが必要です。
社長であっても全てを見通すことは難しいため、ある程度の指標を基にじっくりと経営の基板を築いていく感覚が必要だと言えます。