懲戒処分とは企業秩序を保つためのルール
「あいつ使えないから、懲戒処分にしちゃおっかなぁー。」
懲戒処分という言葉は、社会人であれば誰でも聞いたことがある言葉です。意味は明確ではなくても、何か悪いことをして会社から罰則を受ける処分だということはわかると思います。
なぜ企業には、懲戒処分という罰則の仕組みがあるのでしょうか?
企業の目的は経済活動を行うことです。企業が円滑な経済活動を行っていくためには、組織としてルールを定めて、秩序を保つ必要があります。それが企業秩序です。
企業秩序を保つために、企業にはルールを制定する裁量が与えられます。その権利を「企業秩序定立権」と言います。これは、企業の人的要素(従業員)だけではなく、企業の物的要素(施設など)にも及びます。
企業は、人的、物的に不利益を被った場合に備えて、企業秩序を整えておく権利を持ち、その権利を以って組織のルールを決め、ルールに基づいて、妥当な罰則「懲戒処分」を与えることができるという仕組みです。
もちろん、懲戒処分で与えられる罰則は何でも良いわけではありません。法的な根拠と社会的な合理性が必要です。
それでは、会社は一体どのように懲戒処分を作れば良いのでしょうか。今回は、懲戒の意味、そして、懲戒処分の種類とそれぞれの内容についてご紹介します。
懲戒・懲戒処分とは
懲戒とは、不正または不当な行為に対して制裁を加えることを言います。
企業が従業員に対して不正行為の罰則を与えるためには、その罰則を明示しておく必要があります。明示は、就業規則で行われます。
就業規則に懲戒処分の明示がなければ、懲戒処分を行うことはできません。従って、懲戒処分を行う可能性があれば、就業規則を作成することが大前提です。
懲戒処分を決めるにあたって、守るべき7つのルールがあります。これらを守らずに制定された懲戒処分は、懲戒権の濫用となり無効となります。
懲戒処分の原則1.罪刑法定主義の原則
懲戒事由、懲戒内容を明示すること
懲戒処分の原則2.平等待遇の原則
すべての労働者を平等に扱うこと
懲戒処分の原則3.二重処罰の禁止
同じ事由で二重に処分することはできない
懲戒処分の原則4.不遡及の原則
懲戒規定の制定以前の行為には適用できない
懲戒処分の原則5.個人責任の原則
連座制は許されない
懲戒処分の原則6.相当性の原則
処分の種類・程度には客観的妥当性が必要
懲戒処分の原則7.適性手続きの原則
就業規則や労働協約などで定められた手続きが必要
これらのルールを守りつつ制定する懲戒処分は、一般的に6つの種類に分かれます。
懲戒処分の種類1.戒告(かいこく)・譴責(けんせき)
戒告、譴責は、懲戒処分の中では最も軽いものです。戒告は口頭のみの注意、譴責は従業員に始末書の提出を求めます。
どちらも将来的に問題行動を起こさないように厳重注意することですが、一般企業では、戒告はほぼ意味がありません。戒告を発表する場合は、ほとんどが外部に対するポーズですね。
懲戒処分の種類2.減給
これはとても分かりやすいですね。言葉の通り減給です。
ただし、企業の好きなように減給できるわけではなく、1回の減給額は1日の賃金(平均賃金)の半額まで、月給制なら1か月の減給額は10%までというように、労働基準法91条で上限が設定されています。
懲戒処分の種類3.出勤停止・停職
出勤停止や停職も言葉の通りです。
労働契約においては、就労がなされなければ賃金が支払われません。特段の合意や定めがなければ、「働かない=その分減給扱い」という解釈が一般的です。
この懲戒処分によって給料が減った分は「減給」とは異なり、上限はありません。また、労働契約は結ばれたままなので、機密保持のような社員としての義務や、社会保険などの権利はなくなりません。
懲戒処分の種類4.降格
降格は、労働者の職位(ランク)を下げることです。例えば部長から課長への降格、係長からヒラへの降格などがあります。
多くの会社では職位が高いほど給料が高い場合が多いので、事実上減給を含む処分です。
もちろん、職位によって給料の変わらない会社では、「降格」の処分を受けても減給は起こりません。
懲戒処分の種類5.諭旨退職(ゆしたいしょく)
諭旨退職とは、従業員が自主的に退職することです。ただし、企業側が従業員に退職を勧告し、従業員本人の願い出という形をとります。
「諭旨」とは、「趣旨や理由を諭し告げること」という意味がありますが、これに従わないと次の懲戒解雇になる恐れがあります。
自分から辞めた形をとることで、退職金の支払いや経歴に対する影響は比較的小さくなります。
懲戒処分の種類6.懲戒解雇
懲戒解雇は、従業員に対する最も重い処分で、いわゆるクビです。
通常の解雇とは異なり、事前の予告や解雇予告手当の支払いが不要で、退職金も支払われなかったり、減額されたりします。
なお懲戒解雇は処分の内容が非常に厳しいため、かなり重大な理由がないと法的に正当とみなされない懲戒処分です。
ちなみに、公務員が懲戒処分としてその職をやめさせられることを懲戒免職と言い、内容は懲戒解雇と同じものです。
懲戒処分の意味と役割まとめ
例えあなたが、「あの社員使えないから辞めさせたい。」と思ったとしても、現在の日本の法律では簡単に解雇はできませんし、懲戒処分を与えることもできません。
「社長の感情で従業員に罰則を与えるために懲戒処分があるわけではない!」ということを肝に銘じておきましょう。
懲戒処分は、企業の存立と維持に重要な役割を果たすと同時に、企業と従業員の関係性を明確にするものです。
企業がルールを定めるから偉いのではなく、企業と従業員の契約関係が対等であり、1人の勝手な行動により業務の妨げにならないよう、円滑な企業活動を維持するために必要なものです。
もちろん、今回紹介したのは懲戒処分の基本的な考え方と種類であり、背景の理由よって、同じ懲戒処分でも下される処分内容や程度が異なります。
また、懲戒処分は、企業に帰責事由があるかどうかという法的根拠の正当性、また、社会的、人道的見地から見た正当性を加味するなど、とても繊細な問題です。
だからこそ、しっかりと基本的な懲戒処分とその意味を覚えておきたいものです。その上で、個々の事例に対して、客観的判断を行っていきましょう。
ちなみに、最後にご紹介した最も重い処分である「懲戒解雇」は解雇処分の1つです。解雇の種類は以前ご紹介しました。こちらも合わせて覚えておきましょう。
解雇の種類1.懲戒解雇(ちょうかいかいこ)
解雇の種類2.普通解雇(ふつうかいこ)
解雇の種類3.整理解雇(せいりかいこ)
解雇の種類4.諭旨解雇(ゆしかいこ)