財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応
純資産とは?
簿記では、企業のお金の状態をわかりやすく表現するため、いくつかのグループに分けてそれぞれに意味をもたせ、計算や集計をして企業の状態を明文化します。その中でも「純資産」は、企業の価値を客観的に判断する重要な指標の一つです。今回の記事では、純資産の概要から、よく似ている「総資産」との違いまでを図解によりわかりやすく解説します。
総資産を知る
純資産を理解するためにはまず、「総資産」とは何かを知る必要があります。
総資産は企業が保有している「資産のすべて」を指し、現金や預金だけでなく投資信託・株式(証券)・不動産・車などの資産を含みます。また、総資産には金融機関などからの融資などの負債も含むため、総資産だけを見てその企業の状況を把握するのは難しいでしょう。
総資産に含まれるもの
- 現金
- 売掛金
- 棚卸資産(在庫)
- 有価証券
- 受取手形
- 機械設備等
純資産を知る
「総資産」から企業の負債を差し引いた金額を「純資産」とし、純粋な会社が保有している資産を判断することになります。ただし、純資産の額がマイナスでも「純資産」と呼ぶことも覚えておきましょう。
純資産の額がマイナスの場合、純資産の金額がそのまま、債務超過な金額になります。
具体的には、銀行からの借入金が多くなりすぎ資産をすべて売却しても返しきれない場合です。
企業における純資産は、株主などの投資家からの出資金と事業活動による利益の合計額です。
そして、事業を行う中で、儲かった利益は決算処理時に「利益剰余金」として純資産に含まれていきます。
その為、例えば設立から10年間黒字の場合は、利益分から納税分を差し引いた税引後利益の金額が毎年利益剰余金に上乗せされていきます。
「純資産は自社で保有している返す必要のないお金」であり、自己資本とも呼ばれます。自己資本は、以下の式によって求められます。
自己資本=株主資本+評価・換算差額等+繰延ヘッジ損益+土地再評価差額金 +為替換算調整勘定
また、上記に加え「新株予約権/新規公開株(IPO)」も自己資本に含まれます。
株価を1株あたりの純資産で割ると、「PBR(株価純資産倍率)」を求めることが可能です。
投資家の多くは、PBRを指標として株式売買を行います。
また、銀行から融資を受ける際などには、純資産をもとに会社の現在の状況が判断されるため、企業において純資産が果たす役割は大きいと言えるでしょう。
会社設立から事業経過による資産の変化
株式会社の設立直後で負債がない場合は、「総資産(現金) = 純資産 = 自己資本(資本金)」となります。
よくあるケースでは、会社設立時に資本金として準備した「現金」を使って、設備を購入します。
手元のお金を使って設備を購入した場合は、負債がありませんので、総資産は主に「現金」と「設備」となります。
そして、設備を拡充する際に、銀行からお金を借りるとその金額分が負債として現れます。
純資産と総資産の違いは?
先ほど触れたように、総資産と純資産の最大の違いは「負債を含むかどうか」です。
総資産には負債が含まれているため、実際には返済が必要なお金や担保となっている不動産などを抱えているかもしれません。
一方、純資産は総資産から企業の負債を差し引いたものです。総資産よりも、企業が保有する資産を把握することができると言えます。
純資産の内訳
では、もう少し具体的にどのような項目が純資産に含まれるのかを見てみましょう。
純資産は、「株主資本」と「株主資本以外」から構成されており、貸借対照表の純資産の部に記載されます。
株主資本には「資本金」「資本余剰金」「利益余剰金」の3つがあります。
株主資本
資本金
株主によって出資された資金の内、資本金として計上したもの。
資本剰余金
資本準備金+その他資本剰余金
資本準備金
資本金として処理しなかったお金のことで、積み立てることができます。資本準備金は、業績悪化の際などに取り崩すことができるのが特徴です。
その他資本剰余金
資本金・資本準備金と同じ性質を持った余りのお金のこと。資本取引から発生した、余りのお金です。
利益剰余金
利益準備金+その他利益剰余金。会社が生んだ利益のうち、積み立てておくものです。(この一部を配当金として株主に還元)
利益準備金
利益余剰金の内、会社法によって積立が義務付けられているお金のこと。会社法では、配当した剰余金の1/10は利益準備金として積み立てなければならないという規定があります。また、資本準備金+利益準備金は、資本金の1/4に達しない額までと定められています。
株主資本以外
株主資本以外のものには、「評価・換算差額等」「新株予約権」「少数株主持分」の3つがあります。
評価・換算差額等
その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益等。
・その他有価証券評価差額金:有価証券(売買目的有価証券・満期保有目的債権・子会社株式や関連会社株式以外の有価証券など)の評価差額。基本的に有価証券は投資活動の成果と考えられます。保有目的によって分類され、決算時の直物為替相場、決算時の為替相場による円の換算額などによって計算されます。
・繰延ヘッジ損益:ヘッジ会計適用の場合で、次期以降に繰り延べた損益
新株予約権
その会社の株を購入できる権利
少数株主持分
親会社が所有していない少数株主の持ち分
純資産比率(自己資本比率)が下がる原因は?
企業における純資産の割合を、「純資産比率」(もしくは自己資本比率)と言います。純資産比率は、以下の式によって求めます。
純資産比率=純資産÷総資産(自己資本+他人資本)×100
他人資本は、借入や社債など返済しなければならない負債です。つまり、他人資本が少なく自己資本が多いほうが、企業の安全性は高いということになります。純資産比率では、「自己資本」の多さが重要です。純資産比率を下げないためには、自己資本を増やし他人資本を減らすことが必要です。
また、純資産比率が低下する(自己資本が減少する)原因としては、以下の3つがあげられます。
- 利益が減っている
企業としての営業利益が減少し、自己資本が減ると純資産比率は低下します。反対に利益・自己資本を増やすことで、自己資本比率は改善されます。しかし、状況によっては株主や第三者に出資をお願いし、増資を募ることも必要でしょう。 - 役員報酬や配当金が多すぎる
利益が出たときに、その利益を役員報酬・賞与や配当に回してしまうと自己資本は減り、自己資本比率も下がってしまいます。この利益を社内に残しておくことで自己資本を増やし、純資産比率を上げることが可能です。 - 投資金額、保有資産が大きすぎる
企業としての投資金額、土地や物などの資産が多すぎると、純資産比率は下がります。必要以上の資産は持たずスリム化すること、資産を売却しそのお金を負債に充てることで自己資本を増やすことができます。
まとめ
企業の経営において純資産は、自社の経営状況を把握するためだけではなく、対外的な指標としての役割も担っています。総資産が大きいものの純資産が少ない場合、純資産比率が低下している場合には、改善を急ぎましょう。
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応