財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応
粗利を知るなら売上原価を理解する
異業種交流会などで社長同士が集まるとどうしても(会社の)景気の話になります。
A社長「最近景気どうです?」
B社長「いやー、まあなんとか頑張ってますよ。」
A社長「粗利どれくらい出てます?」
B社長「まぁ率は40%なんだけど経常が厳しいんですよ。」
A社長「粗利40%なら相当いいじゃん!」
という感じです。「粗利はどれくらい?」というフレーズは確かによく使います。ただ、あなたが社長なら、A社長が本当に利益を聞きたいわけじゃなく、会話の中の枕詞だということもわかるはずです。
さてこの粗利ですが、異業種間で聞き合っても意味はありません。粗利は業種によって大きく数字が変わります。なぜなら、売上原価の考え方が違うためです。
粗利(売上総利益)=売上-売上原価
以下の損益計算書を思い出してください。
この5つの利益の関係を文章にすると以下のようになります。これで理解できる方も多くいるはず。
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・売上から売上原価を引くと、売上総利益になる
・売上総利益から販売及び一般管理費を引くと、営業利益になる
・営業利益に営業外収益を足し営業外損益を引くと、経常利益になる
・経常利益に特別利益を足し特別損失を引くと、税引前利益になる
・税引前利益から法人税などを差し引きをすると、純利益になる
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損益計算書に関する詳細は下記をご覧ください。
損益計算書の見方がわかる粗利・営業利益・経常利益…5つの利益この売上原価の概念は割りと厄介です。そのため、私たちは気軽に「粗利はどれくらい?」と使ってはいけないのです(まぁ、いけないことはないですが)。
そこで今回は粗利をしっかりと理解するために、売上原価がどのようなものかを説明したいと思います。
売上原価とは
売上原価とは商品の仕入れや製造をするときにかかる費用のことを指します。つまり、商品販売をする際に最低限必要なコストということになります。
実際にいくつかの事例を見てもらった方がわかりやすいでしょう。
売上原価の事例1
一番わかりやすく単純な業種は小売業や卸業です。たとえば、あるショップが1足30,000円の靴を仕入れて50,000円で販売したとします。1年間で100足仕入れ、100足販売した場合の売上は500万円です。その際の粗利は200万円、売上原価は300万円になります。
粗利=500万円-30,000円×100足=200万円
売上原価の事例2
では次。もし1年間で100足仕入れ、90足が売れた場合はどう考えれば良いでしょうか。
100足の仕入れを行っているため、
「粗利=50,000円×90足-30,000円×100足=150万円」
このように粗利が150万円、売上原価を300万円と考えるのは間違いです。実際は以下の様に考えます。
粗利=50,000円×90足-30,000円×90足=180万円
売上原価は1年間(1期)で売れた90足分(450万円)で計算するため、売上原価270万円、粗利180万円となります。
このように売上と売上原価は比例しており、売上によって売上原価は変動します。
在庫に関する詳細は下記をご覧ください。
在庫が経営に与えるメリットデメリット売上原価の事例3
このショップには期首の段階(2期目)で去年の在庫として10足の靴がありました。期中に100足の靴を仕入れ、同じように販売をしました。期末に靴を数えると20足売れ残っていることがわかりました。この場合の粗利と売上原価はいくらになるでしょう。
まず、1年間(2期目)の靴の販売数は90足です。事例2と同じように販売個数を基に売上原価が決まります。
販売数=10足+100足-20足=90足
粗利=50,000円×90足-30,000円×90足=180万円
先ほど同様、期首に在庫があろうが期中に仕入れを増やそうが売上に対する売上原価を計算するため、粗利額は変わりません。
なぜならば、仕入れ価格は売り上げた時に費用計上する規則(ルール)だからです。
このケースで言えば、仕入れのうち90足分(270万円分)が経費計上されることになります。
ちなみに、期末に在庫を数える行為を棚卸(実地棚卸)と呼び、在庫は期末在庫という資産になります。
会社は期末に残っている商品(在庫)を数えなければ正しい売上原価を算出できないため、正確な粗利も期末にならなければ算出できません。
売上原価と粗利がなぜ難しいのか
在庫の概念があるとはいえ、理解すれば粗利の算出・売上原価の概念は難しいとは感じません。では、なぜタイトルで「意外と難しい」と謳っているのでしょう。
上記はあくまでも小売業の売上原価です。ところが業種が変わると売上原価の概念が変わってしまいます……。そう、売上原価が厄介なのは商売の形態によって考え方や含めるものが変わるからなのです。
ここを詳しく説明すると情報が膨大になりすぎてしまうので、軽く説明をします。
まず、売上原価の主な科目は「仕入れ代金」と「外注費」です。
仕入れ代金は主に原材料と商品に分かれます。つまり、原材料を仕入れて加工して販売するか、商品を仕入れて小売店で販売したり卸したりするかです。外注費は主に商品の製造・加工を依頼することで発生します。
仕入れ代金も商品製造加工の外注費も、その商品を販売するためには欠かすことができません。
もう一つ業種によっては欠かせない科目があります。それは人件費です。ある商品の製造・加工を自社で行う場合、その商品の製造・加工に対して「人工いくらで~~」と考える商売があります。
つまり、商品を製造・加工する際の人件費は商品に対する変動費として処理することができるのです。
原価とは商品を生産する工程に要した価格のことを言います。
ここには販売する為の費用が含まれていないことがポイントです。
原価は、直接費と間接費に分けられます。
直接費は直接材料費・直接労務費・直接経費に分かれ、間接費は間接材料費・間接労務費・間接経費に分かれます。
直接費に分けられるものは全て売上原価として計算する(しても良い)というルールがあります。
そのため、製造業、建設業、システム開発業など専門的にものを作る仕事の人件費(直接労務費)は売上原価に含めることになります。
反対に、ものを作らない業種の人件費(間接労務費)は売上原価に含めません。
間接労務費は経理や総務、管理部門といった間接部門が主に含まれます。
販売管理費の「給与」として計上されます。
ちなみに、売上原価に含める直接労務費は、製造・加工を専属している場合のみで、製造・加工”も”担当している方の人件費を按分して売上原価に含めることはほぼありません。細かく按分して売上原価を算出することは複雑すぎます。
粗利率とは
売上が増えると粗利も増えます。反対に、売上原価が増えると粗利は減ります。そのため粗利は効率が重要です。粗利の効率を求めるために「粗利率」という概念を使います。
粗利率(売上原価率)=粗利÷売上高
通常「粗利はどれくらい?」に対する回答は具体的な粗利益ではなく、この粗利率で答える場合が多いはずです。
さて、冒頭でこのような会話がありました。
A社長「粗利どれくらい出てます?」
B社長「まぁ率は40%なんだけど経常が厳しいんですよ。」
A社長「粗利40%なら相当いいじゃん!」
一般的にサービス業は粗利率が高く、小売業は粗利率が低いと言われています。と言っても、扱う商品によって価値が異なるため粗利率も大きく変わります。
2005年度なので少々古いのですが、誰もが知っている企業の粗利率の例があったので引用しておきましょう。
参考:
粗利とは 売上総利益 | 粗利率 計算 売上原価と意味
これだけを見ても、異業種で粗利率を比べることに意味が無いことがわかるでしょう。
売上原価と粗利(売上総利益)の考え方まとめ
なぜこのように複雑な売上原価と粗利について理解しなければいけないのでしょうか。
これはまた別途お話しますが、いくら勢いがある会社でも、相対的に利益率の低い商品を扱っていると会社が発展しないためです。
単一の商品だけを取り扱っている会社は少ないでしょう。商品ではなくサービスを提供していても、アップセルやちょっとした対応を含めて複数種類の料金体系があるはずです。
あなたは自社のそれぞれの商品やサービス1つ1つが、どれくらい利益に貢献しているか知っていますか?
たった1つの商品の利益効率が悪いために、会社全体が非効率的な業務体制になってしまい、資金繰りを悪化させているケースも少なくないのです。
この状況を見抜くためには、一番最初の利益である粗利の正確な計算が必要です。売上原価の正確な計算が必要です。
会社の健全経営のためにも、早めに売上原価と粗利の考え方を押さえておきましょう。
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応