財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応
当期純利益とは
企業における利益には、差し引く項目の違いにより5つの種類(「売上総利益・営業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益」)があります。
「それぞれの違いについて理解できていない」という方も少なくないでしょう。そこで本記事では、企業の最終的な利益である当期純利益について、わかりやすく解説します。
純利益とは、その名の通り企業における純粋な利益のことです。特に、1事業年度における最終的な純利益のことを「当期純利益」と言い、売上からすべての費用と法人税・住民税・事業税の社会的コストを差し引きます。
当期純利益は、英語で、「current net earnings」「current net income」「current net profit」などと表現されます。
また、当期純利益率は、売上に対する当期純利益の割合を示したものです。
当期純利益がマイナスの場合には、「当期純損失」という呼び方をします。
当期純利益は、企業の収益性・健全性を知るために欠かせない指標の一つです。当期純利益を理解するためにはまず、経常利益・営業利益の2つを理解しておくことが必要です。
営業利益
売上から、本業にかかった費用を差し引いたものです。
本業にかかった費用とは、「商品の仕入れ費用」「商品を作る費用」「販売にかかった費用」と考えるとわかりやすいです。
その為、販売広告費や外注費、材料の仕入れもすべて費用になります。
そして、起業して間もない経営者が「へ~」と言われるのは人件費です。
当然本業にかかった費用になります。
おそらく、技術者や営業マンは「作ったり、売ったり」するので、イメージがつきやすいのですが、総務部や経理部のように間接的な費用は本業にかかった費用としてイメージがつきにくいのかもしれません。
経常利益
営業利益に、本業以外の損益(利息や受取配当金、不動産賃貸料など)を加えたものです。
中小企業では、あまり本業以外での損益は発生しませんが、多いパターンは、自社ビルを持っており、業務で使わないフロアーをテナントして貸し出す場合です。
自社ビルを持っている会社が不動産賃貸業務を行っている場合は、本業に当たりますが、賃貸業務が本業でない場合は、テナント料として得た利益は経常利益に該当します。
他には、株保有で得た利益です。
財テクとして株を保有していた場合、株の配当金を受けとる場合があります。
この利益は経常利益に含めます。
上場企業の株の場合、配当金は基本的には毎年発生します(最近は少ないのかもしれませんが、、、)。
このように利益に継続性があると営業外損益として扱われます。
また、本業か否かは、「登記簿謄本」の事業目的に記載があるかで判断します。
登記簿謄本の事業目的は、どのような目的を含めても問題無く、その数も多くても登記できます。
経常利益は、5月の新聞でよく記事になります。
その理由は、経常利益が「事業の利益指標」になり、且つ日本では3月決算が多い為です。
3月決算の場合、2か月後の5月末までに決算報告書を提出する義務があるので、5月は新聞に大手の決算内容が多く掲載されます。
そして、余談ですが納税申告の終わった6月に株主総会が多く行われます。
なぜ当期純利益を把握することが重要なのか?
経常利益は、事業の成長を把握する為の重要な指標ですが、当期純利益は、経常利益ではわからない会社の事情を推測することができます。
当期純利益が重要な理由としては、以下の3つが挙げられます。
企業の収益性、健全性を知ることができるから
企業の収益性や健全性を表す指標はいくつかありますが、当期純利益もその一つです。自社の状況を把握するための意味合いに加え、対外的な企業の評価指標でもあるため、常に当期純利益を把握し、改善していくことが求められます。
下記に詳細を記載しますが、当期純利益の計算には、「特別利益/特別損失」を加味する必要があります。
「特別利益/特別損失」は、その期だけに発生する利益/損失です。
ここが、営業外収益との違いです。
よくあるケース
よくあるケースでは、工場を閉鎖し土地を売却するといった固定資産売却益です。
この場合は、将来のコストを見据え早期に工場を閉鎖することで得た利益です。
その為、多くの場合は、前向きな経営判断として評価されます。
他には、早期退職者制度により退職金支払いが発生した場合です。
この場合も、将来のコストを圧縮する為に前もって清算することで、経営判断として評価される場合があります。
また、株を売却した場合は特別利益として計上されます。
配当金は、継続性がありますが、株を売却するとその期で収益が終了するので特別損益となります。
経常利益ではプラスでも、当期純利益ではマイナス
経常利益ではプラスでも、当期純利益ではマイナスになることがあります。
このマイナスが事業継続として必要な経営判断であれば、前向きに評価され事業の将来における収益性や健全性を見る判断となるのです。
日産の元CEOであるゴーンは、工場閉鎖や人件費カットにより、企業をスリム化しました。
その為の費用は大きかったですが、その効果によりV字回復を果たしました。
事業継続を目的とした固定費圧縮であれば、結果、当期純利益が大幅に小さくなっても金融機関は将来の収益性改善を期待するので、積極的な判断と評価をします。
投資家が注目しているから
株式会社では、投資家からの資金調達が欠かせません。純利益が大きければ、その分配当金が多く支払われるのではという期待が集まり、投資家からの資金が集まりやすくなります。
そのため、資金調達の意味合いからも当期純利益を把握することは重要です。
繰越利益剰余金を求める際の計算に必要だから
賃借対照表における「繰越利益剰余金」を求めるためにも、当期純利益を把握する必要があります。
繰越利益剰余金は、以下の計算式で求めます。
繰越利益剰余金=(当期純利益+繰越利益+任意積立金の取り崩し額)—期中配当額—配当に伴う利益準備金積立額
※繰越利益:前期に利益として計上されず繰り越された利益のこと。
当期純利益の求め方・仕訳方法
冒頭で当期純利益は、最終的な純利益のことと解説しましたが、ここではもう少し詳しく、その計算方法・求め方について見てみましょう。
各数値がわかっていれば、簡単に当期純利益を求めることが可能です。当期純利益の出し方を理解し、具体的な金額を算出してみましょう。
計算方法
当期純利益=税引前当期純利益(経常利益+特別利益—特別損失)—社会的コスト(法人税+住民税+事業税)
- ※特別利益・特別損失とは、通常の企業における経営活動とは直接係わりのない、その期だけ特別な要因により発生した利益、損失のことです。
- 仕訳:
貸借対照表において、当期純利益は最後の項目で、利益余剰金を構成する要素です。利益余剰金は純資産の部に位置し、利益準備金とその他利益余剰金から構成されます。当期純利益の蓄積が、その他利益余剰金になります。
当期純利益の高い企業は?
では、実際に日本の企業はどれくらいの当期純利益を上げているのか、ランキング形式見てみましょう。
【2018年】
- トヨタ自動車 輸送用機器 東証1部 1.8兆円
- ソフトバンクグループ 情報・通信業 東証1部 1.4兆円
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ 銀行業 東証1部 9264億円
- 日本電信電話 情報・通信業 東証1部 8001億円
- 三井住友フィナンシャルグループ 銀行業 東証1部 7065億円
- 日産自動車 輸送用機器 東証1部 6634億円
- NTTドコモ 情報・通信業 東証1部 6525億円
- 本田技研工業 輸送用機器 東証1部 6165億円
- みずほフィナンシャルグループ 銀行業 東証1部 6035億円
- KDDI 情報・通信業 東証1部 5466億円
【2020年】
- トヨタ自動車 輸送用機器 東証1部 2兆円
- 日本電信電話 情報・通信業 東証1部 8553億円
- 三井住友フィナンシャルグループ 銀行業 東証1部 7038億円
- KDDI 情報・通信業 東証1部 6397億円
- NTTドコモ 情報・通信業 東証1部 5915億円
- ソニー 電気機器 東証1部 5821兆円
- 三菱商事 卸売業 東証1部 5353兆円
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ 銀行業 東証1部 5281億円
- 伊藤忠商事 卸売 東証1部 5013億円
- 日本郵政 サービス業 東証1部 4837億円
ここでは10位までのランキングを紹介しましたが、すべて東証一部上場企業が占めています。当期純利益上位には、自動車、通信事業を行う企業が多い点も特徴と言えるでしょう。
直近のデータでは、メガバンクであるみずほフィナンシャルグループがランク外となり、ソニーが躍進していることが分かります。
当期純利益を改善する方法
「当期純利益をもっと上げたい」「改善したい」という場合には、先ほどの計算式を今一度見直してみましょう。計算式を見ると、当期純利益を改善するためには、経常利益を増やすことが重要であることがわかります。
経常利益自体を上げることも必要ですが、まずは本業での利益である営業利益に注目してみましょう。営業利益は、以下のように計算されます。
営業利益=売上総利益—原価・販売費および一般管理費
売上総利益は、売上から売上原価を差し引いたものです。また、原価・販売費および一般管理費は、人件費・光熱費・広告費などが含まれます。
このように、当期純利益の内訳をさらに細かく分け、原因となっている要素を探ります。具体的には、以下の3つの改善方法が考えられるでしょう。
売上原価を抑える
売上原価を抑えることで売上総利益は増加するため、結果として当期純利益は増えることになります。
商品を販売している事業であれば、原価を抑えることを意識してみましょう。
仕入原価を抑える手法としては、大量仕入れによる単価コストを下げる方法です。
この方法は価格交渉しやすいので、実現性が高いですが在庫を抱えるリスクがあります。
在庫管理との兼ね合いが難しいですが、検討してみてはいかがでしょうか。
在庫管理に関する詳細は下記をご覧ください。
在庫が経営に与えるメリットデメリット人件費・光熱費・広告費を見直す
構成要素である販売費および一般管理費を減らすことも、当期純利益を改善するためには欠かせないでしょう。例えば、光熱費や広告費を見直し、無駄がないかをチェックします。また、人件費についても改善の余地がないか、考えるべきでしょう。
売上を増やす
上述した2つを意識しながらも、同時に売上を上げていくことも重要です。売上だけが高く利益が出ていない状態は望ましくありませんが、売上が上がれば、原価などのコストを見直すことでその分当期純利益を上げることができます。
当期純利益についてのまとめ
当期純利益は、対外的な意味でも重要な指標です。当期純利益の数字が悪いようであれば、売上原価を抑えるなどの改善方法を取る必要があるでしょう。 まずは、今回紹介した計算方法により、自社の当期純利益を把握し、 常に当期純利益の数字を気にかけ、改善を心がけましょう。
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応