
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応
主婦のパートと起業はどっちが得?
パートをしている主婦であればもちろん、専業主婦の方なら収入103万円の壁と130万円の壁という言葉は聞いたことがあると思います。
働く主婦は生活をしていく上で、夫の扶養家族であるかどうかが重要な問題です。そして、その条件が変わる収入が、103万円と130万円に設定されています。
それぞれの条件と扶養の中身は後ほどご紹介するとして、たとえば、主婦がパートではなく個人事業主になった場合、扶養はどうなるのでしょう。
また、法人になった場合、扶養を選べるのか、または国民健康保険・社会保険のいずれかに強制加入になるのかご存知でしょうか。
主婦が一念発起して、起業をするケースが増えている昨今、当人の主婦だけでなく夫の立場でも絶対に知っておくべきお話でしょう。
今回は、主婦が起業した場合の扶養、国保、社保についてお話したいと思います。
働く主婦の103万円の壁と130万円の壁
旦那はサラリーマン、妻はパートという家庭は多いはずです。
多くの主婦が旦那の扶養家族になっていますが、扶養家族になる条件として、パート年収には103万円と130万円の壁があります。
年収103万円未満の場合
妻のパート年収が103万円未満の場合、「基礎控除」+「給与所得控除」の合計額が103万円になるため、確定申告や年末調整によって支払った所得税が全額戻ってきます。
確定申告や年末調整はパート先で行ってくれるものなので、特に意識する必要はないでしょう。
年収103万円~130万円の場合
妻のパート年収が103万円~130万円の場合、以下の所得税が発生します。
所得税=年収-103万円×10%
仮に年収115万円の場合、1万2千円の所得税で手取りは113万8千円ということになります。
この場合、扶養者の「配偶者控除」は対象外になりますが、「配偶者特別控除」が適用されます。配偶者特別控除は以下をご参考に。
配偶者特別控除の要件
納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下、かつ、配偶者の合計所得金額が38万円超76万円未満の場合に、配偶者の所得金額に応じて認められるものです。—–
・配偶者の収入が103万円超141万円未満の場合に配偶者特別控除の対象となる
・配偶者特別控除は夫婦の間で互いに受けることはできない
・配偶者控除と配偶者特別控除を同時に受けることはできない
—–
年収130万円以上の場合
妻のパート年収が130万円を超えてしまうと、夫の扶養家族扱いではなくなってしまいます。
そのため、所得税、住民税に加えて、国民健康保険の加入が義務付けられます。つまり、健康保険料と国民年金保険料を支払わなければいけません。
健康保険料は自治体によって違いますが月額5,000円程度、国民年金保険料は15,000円程度の負担になります。年間で合計24万円もの負担増です。
つまり、年収が130万円~150万円になるまでがんばって働くくらいなら、1~2か月ほど働かず休んでしまった方が得だということになります。
※平成28年10月から、一部の大企業で働く場合に限り、被扶養者の認定基準が年収106万円未満に引き下げられます
主婦が個人事業主になった場合
では、主婦がパートではなく個人事業主になった場合、どのように考えれば良いでしょうか。
年収103万円未満の場合
パート主婦の場合、年収103万円未満は次のように考えました。
基礎控除48万円+給与所得控除55万円=103万円
【ポイント】
令和2年(2020年)に配偶者特別控除の適用対象の合計所得金額が見直されました。
その結果、今まで38万円だった基礎控除額が48万円に増額しました。
但し、給与所得控除は、65万円から55万円に減額です、、、。
結果としては、103万円は変わらずです。
つまり、扶養による控除があるため、103万円未満は税金がかからないという考えです。
これに対して、個人事業主の場合は、給与所得控除の55万円が青色申告控除の55万円と置き換わります。
基礎控除48万円+青色申告控除55万円=103万円
結果としては、どちらも同じになります。ただし確定申告を青色でしないと控除額が減ってしまいます。ちなみに、年収103万円未満であれば扶養を外れることはないので保険料を払う必要はありません。
年収103万円~130万円の場合
こちらも考え方や計算方法は同じなので割愛します。
年収130万円以上の場合
パートの考え方と同じく、国民健康保険に加入しなければいけません。
というわけで、パートでも、個人事業主でも、保険や所得税に対する基本的な考え方は同じだということです。
個人事業主になるその他のメリットやデメリットはこちらをご参考に。
主婦が法人代表になった場合
では、個人事業が大きくなり「これは株式会社化した方が税金的に得だな。」となった場合、どのように考えれば良いのでしょうか。
この場合、仮に代表取締役の役員報酬を年間103万円未満にしても、夫の扶養家族になることはできません。
法人を作った時点で社会保険の加入は義務です。社会保険の詳細と計算方法はこちらをご参考に。
法人における社会保険の適用義務
雇用保険:法人雇用はアルバイト、パート問わず義務、ただし法人の代表者は加入することができない
労災保険:法人雇用はアルバイト、パート問わず義務
健康保険:法人雇用は義務、パートは時間等によって義務
年金保険:法人雇用は義務、パートは時間等によって義務
つまり、せこい節税や保険料の削減は行えません。個人事業主から法人成りする場合は、その辺りもよく考えて行ってください。
合わせて、社会保険未加入時のデメリットも押さえておきましょう。
社会保険未加入のデメリット1.最大2年の追徴金
社会保険未加入のデメリット2.法的な罰則がある
社会保険未加入のデメリット3.人材採用が困難
社会保険未加入のデメリット4.ハローワークで求人できない
社会保険未加入のデメリット5.関係者からの損害賠償請求
サラリーマンである夫が脱サラして法人を立ち上げることと、夫がサラリーマンのまま主婦が法人代表になることは考え方が違うということになります。
主婦の起業で扶養、国保、社保はどうなる?まとめ
最近は本当に個人事業主が増えました。もちろん、主婦が副業から個人事業主になるケースも多いはずです。
そのため、今回ご紹介した主婦の起業のお話は全く珍しいものではなく、割とよくある話だと思った方が良いでしょう。さらに今後増えるはずです。
もちろん基本的には、起業や法人成りの目的が税金や「保険料のちょっとしたお得のために行う」という考え方は間違っています。
節税などに注力するぐらいなら、法人の売上を高める努力をした方がよっぽど実入りは増えるはずです。
個人事業主になったり、法人成りするためのざっくり目安は以下に記載してあるので参考にしてください。
個人事業主になるための所得目安は?
年間所得20万円未満
年間所得20-50万円
年間所得50-100万円
年間所得100-500万円
年間所得500-1,000万円
年間所得1,000万円超