財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応
重要:メリット/デメリットを知る前に
基本概念1:わざわざ会社(法人)を作る理由は?
多様化した今の時代、個人が収入を増やす手段は様々です。
本業の他にちょっとした副収入を作りたいなら、わざわざ会社(法人)を作る必要はありません。
例えば、インターネットで副収入を得る手段は簡単に思いつきます。アフィリエイトやネット販売を使ったり、いらなくなった洋服などのオークション販売などなど……です。
もちろんこれらのちょっとした副業のために、最初から何らかの届け出が必要になるかと言うとそんなことはありません。
少しずつステップアップしていく中で、必要に応じて「個人事業の開業届出」を税務署に申請したり、「法人登記申請書」を法務局に申請したりすれば良いのです。
但し、知っておかなければならないことは、特定の条件を満たした場合を除き、基本的に収入(所得)があれば「必ず申告をしなければならない」ということです。
そして、申告するとメリットがあるのです。
それが経費特例です。
経費としてとして認められる金額(②)が多くなれば、それだけ課税対象の所得(課税所得)が減り、納税金額が少なくなるのです。
この経費特例は、申告をしたことに対する特典であり、申告を促そうという国の政策なのです。
単純な式なのですが、事業主のメリット/デメリットを知る上では、この基本を理解していることがとても重要になります。
個人事業主として申請をする判断ポイント
申請を判断するポイントは、課税所得の式でも説明しましたが「収入(利益)」です。
収入が僅かな場合は、経費を膨らませて課税所得を小さくしても手元に残るお金は僅かとなります。
その為に、わざわざ申請手続きをして、申告をするすることは単なる労力損になってしまいます。
その為、収入が僅かな場合は、届出を行わない条件を確認し、申告を行わなくてもよい特定条件に該当するように検討します。
収入がそれなりに出てきた場合は、個人事業事業主の申請を検討します。
そして、収入の増え方を見ながら、必要に応じて白色申告から青色申告に変更します。
その方がより経費として認められる金額が大きくなるからです。
このように、「個人事業主として申請をするのか?、申告方法はどうするのか?」の判断ポイントは、収入(利益)額と申請メリットの2つの要素なのです。
そして、収入が大きくなり、ビジネスが軌道に乗ったら「法人」として申請をすればよいのです。
参考:
[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続|申告所得税関係|国税庁
社長の初仕事は会社設立!起業手続きの8つの流れ
法務省:商業・法人登記申請
基本概念2:個人事業主に給料支給?
個人事業主は、収入のすべてが個人事業主のお金です。
給与を支給するという概念は、ありません。
なぜならば、「個人事業主自身は、その人そのもの」だからです。
しかし、個人事業主でも事業をしていると配偶者(例えば妻)と仕事を手伝ってもらう、或いは子供に手伝わせるというケースは多いと思います。
この際に、妻や子供に手伝い賃として支払うお金は「給与」として扱えます。
つまり、経費になるのです。
なぜならば、事業を行う為に使った費用だからです。
法人も「人」として扱います。
この場合の「人」は法律として認められた人格を持った人です。
その為「法人」と言います。
個人事業主の申請は、税務署だけですが、法人を設立する場合は、まず、「人格としての法人」を申請する為、法務局に出します。
その後、税務署に届けるという2段階の手続きが必要となります。
その為、代表者1名しかいない会社でも会社から給与を受けるという仕組みになります。
個人事業主とは
個人事業主とは、法人を設立しないで自ら事業を行っている個人のことです。
個人事業主という名前だからといって事業主一人のみというわけではありません。家族のみ、あるいは少数の従業員で構成する小規模経営が一般的です。自営業者と言った方が馴染みやすい方もいるでしょう。
例えば、商店街の店舗、街中の飲食店、美容院、コンサルタント業なども規模によっては法人ではなく、個人事業主で営まれています。
事業を行っているという意味では個人事業主も法人と同じように思うかもしれませんが、個人事業主と法人では義務と権利が異なります。
法人のメリット、デメリットは以下を参考にしてください。
参考:
法人は個人事業主より得?会社設立のメリットデメリット
個人事業主のメリットとデメリットは、その義務と権利によって以下のものが考えられます。
個人事業主のメリット
個人事業主のメリットは、青色申告のメリットとほぼ同様です。つまり、個人事業主でメリットを得たければ、白色申告ではなく、青色申告にした方が良いということです。
以降で「なぜ、青色申告の方がメリットが高いのか」を説明します。
個人事業主のメリット1.業績によって控除額を選択できる
青色申告では、帳簿を複式簿記で管理していれば65万円、簡易簿記で管理していれば10万円を課税所得から控除できます。これを青色申告特別控除と言います。
下記例では、1期目の赤字(12万円)を3期分で案分すると4万円で、2期目の赤字(15万円)を3期分で案分すると5万円になります。
それぞれ赤字を出した期の翌期から起算して3年間その赤字分を相殺することができます。
その為、赤字の繰り越し分が重なっている場合は、合計することができます。
その為、3期、4期では、計9万円を繰越欠損金として経費計上出来ます。
その結果、課税所得が減り、税金も安くなるという仕組みです。
複式簿記の例
借方と貸方からなる管理方法です。
例
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
雑費 | 10,000 | 現金 | 10,000 |
簡易簿記の例
下記5つの帳簿で管理します。
1. 現金出納帳
2. 売掛帳
3. 買掛帳
4. 経費帳
5. 固定資産台帳
個人事業主のメリット2.赤字は3年繰り越すことができる
日本の会計では、繰越欠損金という制度があります。簡単に説明すると、その年の赤字を申告する(損失申告)ことで、3年に渡って所得の相殺(利益との相殺)を行うことができ、納税額を抑えることができるというものです。
下記例では、1期目の赤字(12万円)を3期分で案分すると4万円で、2期目の赤字(15万円)を3期分で案分すると5万円になります。
それぞれ赤字を出した期の翌期から起算して3年間その赤字分を相殺することができます。
その為、赤字の繰り越し分が重なっている場合は、合計することができます。
その為、3期、4期では、計9万円を繰越欠損金として経費計上できます。
その結果、課税所得が減り、税金が安くなるという仕組みです。
個人事業主のメリット3.家族への給与を必要経費にできる
事業所得を家族(従業員扱い)に給与として支払いうことで、経費にすることが可能です。
もちろんその場合、
課税所得=収入-経費-各種引当金、準備金等
この計算式に当てはめることができるため、課税所得額は少なくなります。
なお、白色申告の場合は、配偶者への支給金額は最大で86万円が上限となります。
個人事業主のメリット4.30万円未満の固定資産は即時償却の経費にできる
青色申告であれば、1セットに付き30万円未満の減価償却資産は、取得した事業年度で全額を経費にできます。これを「少額減価償却資産の特例」と言います。
少額減価償却資産の特例は、その事業年度で固定資産を取得した合計額300万円を限度に損金算入できます。
個人事業主のメリット5.事業主は自宅兼オフィスで家賃や電気代の一部も経費にできる
青色申告の場合、賃貸であれ持ち家であれ、オフィス兼としていれば、家賃や光熱費などを割合に応じて経費にできます。
参考:
確定申告の青色と白色とは?個人、法人のメリットデメリット
これらに加えて、個人事業主のメリットは他にもあります。
個人事業主のメリット6.事業所得と給与所得などを合算できる
確定申告の際、給与所得、雑所得など他の所得があれば、それらと事業所得を合算して申告できます。仮に事業所得が赤字だったとしても、他の所得との合算で税金還付が多く受けられるようになります。
このメリットは、サラリーマンの副業が該当します。
サラリーマンは、給与から給与所得分の所得税が源泉(天引き)されています。
そして、年末調整で源泉された金額が多い場合は、還付される仕組みなのですが、副業で赤字が出た場合、副業の赤字分を経費として給与で得た所得から引くことができます。
その結果、課税所得が小さくなるので、給与から源泉された金額の一部が帰ってくる(還付される)仕組みです。
副業出来るサラリーマンにはとっても大きな特典です。
しかし!、「この仕組みをうまく使って、税金を小さくしよう!」と思っている方は、注意が必要です。
この制度は、副業が形だけの場合は、適用されません。
実際に副業の事業活動を行っており、その事業活動が生活収入の一部を支えている事実がないと、それは事業所得(売上)とみなされず「雑所得」扱いになります。
「雑所得」はこの制度の対象外なので、適応を受けることができません。
個人事業主のメリット7.屋号で口座管理できる
家計用のものとは別に、個人事業主の屋号で銀行口座を開設できます。家計用のものと別口座にすることで記帳が楽になりますし、事業にもメリハリが付きます。
さらに、税理士や金融機関に事業主として通帳を見せる際に、プライベートな部分が見えてしまうことを防げます。
個人事業主のデメリット
個人事業主のデメリットも青色申告のデメリットとほぼ同様です。メリットがあるため、デメリットが許容できると考えてください。
つまりこちらのデメリットも青色申告することを前提に考えます。
個人事業主のデメリット1.税務署に申請が必要になる
青色申告をで確定申告を行いたい場合は、まず最初に「所得税の青色申告承認申請書」を最寄りの税務署に届け出る必要があります。
個人事業主のデメリット2.複式簿記での記帳が必要になる
青色申告では、損益計算書と貸借対照表の両方を作成し、決算書として毎年3月15日までに提出しなければいけません。また前述のとおり、必要帳簿類も増えるため、管理コストがかかってきます。
参考:
確定申告の青色と白色とは?個人、法人のメリットデメリット
これらに加えて、個人事業主のデメリットは他にもあります。
個人事業主のデメリット3.確定申告が毎年必要になる
「個人事業の開業届出」を提出すると、例え年間所得が20万円未満でも毎年確定申告が必要になります。
個人事業主のデメリット4.失業保険が出ない
個人事業主は自ら事業を行っているため、失業という概念はありません。そのため失業保険の給付がありません。給付を受けたければ、開業停止届か廃業届を出して、個人事業主をやめるしかありません。
個人事業主になるための所得目安は?
個人事業主にはメリット、デメリットがあるので、それらを天秤にかけて「個人事業の開業届出」を出す必要があります。判断材料の1つに所得目安があります。
下記は、事業所得別にまとめた表となります。
あくまでも目安なので、最終的には税理士に相談してください。
年間所得20万円未満
確定申告の必要もありません。
年間所得20-50万円
確定申告が必要です。毎年所得が見込まれる場合は、将来を見据えて青色申告を行っても良いでしょう。
年間所得50-100万円
青色申告でメリットを受けられる所得なので、個人事業主の申請を行っても良いでしょう。
年間所得100-500万円
2014年4月1日前までは、前々年分または前年分の事業所等の金額が300万円以下であれば、白色申告者は、記帳の義務が必要なかったのですが、法改正により個人事業主であれば記帳が義務化されました。
その為、青色申告の65万円特別控除を積極的に活用される方が良いでしょう。
年間所得500-1,000万円
500万円を超えたくらいから、会社設立を視野に入れた方が良いでしょう。
年間所得1,000万円超
個人事業主から法人に切りた方が得です。
個人事業主のメリット、デメリットと具体的な所得目安まとめ
冒頭でお話した通り、何らかの収入を得ていてもすぐに個人事業主になる必要はありませんし、ある程度継続的な所得を得るまでは個人事業主のメリットもありません。
私たちは会社を作る(法人を作る)と言うと、とてもハードルが高く、人生のすべてをかけて挑まなければいけないと思ったり、到底自分にはできないと思いがちですが、会社設立は個人事業主の延長にあるだけのものです。
そして、個人事業主も単なる副収入や何らかの雑収入の延長にあるだけのものです。
それらの違いは義務と権利です。
もちろん、少額の副収入を得ることと会社組織を経営することの難しさは全く変わりますが、「安く仕入れて、高く売る」という商売の基本は何も変わりません。
将来独立をしたいという方は、いきなり会社を辞めて独立を目指すのではなく、まずは会社に所属しながら副収入を作り、個人事業主を経て、会社設立に至るという道もあることを知っておいてください。
個人事業主が行える節税対策もしっかり押さえておきましょう。
また、起業に至るまでの考え方や起業を決意するまでの流れも押さえておいてください。起業すること、社長になることを特別なことだと思いすぎないことが大切です。
参考:
副業禁止でも大丈夫!在職中の起業準備7つのポイント
アイデアからビジネスモデルを作るたった1つの方法
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応